子宮頸がんワクチンを受けましょう!

子宮頸がんワクチンと呼ばれますが、正しくはヒトパピローマウイルス(HPV)に対するワクチンであり、以後、ここではHPVワクチンとさせていただきます。

主に「10万個の子宮」(村中璃子,

平凡社)という本から引用させていただきます。難しい内容も分かりやすく記述されていますので、詳しくは本書をお読みいただけると幸いです。

村中璃子氏は、WHOで勤務したこともある現役医師兼ジャーナリストです。2017年、HPVワクチン問題に関する一連の著作活動により、科学雑誌「ネイチャー」などが共催するジョン・マドックス賞を日本人として初めて受賞しました。この賞は、困難や敵意に遭いながらも、公共の利益のためサイエンスを世に広めた人物に与えられる賞です。ノーベル医学生理学賞を受賞した本庶佑氏も、HPVワクチン問題に「マスコミはきちんとした報道をしていただきたい」と警鐘を鳴らし、著者の活動に賛同しています。

本庶佑氏、ストックホルムでも子宮頸がんワクチン問題に警鐘 「マスコミはきちんとした報道をしていただきたい」|村中璃子 Riko Muranaka

2018年12月11日 (火)公開の医師向け会員制メディアm3(登録料無料)への寄稿記事「本庶佑氏、ストックホルムでも子宮頸がんワクチン問題に警鐘「マスコミはきちんとした報…

子宮頸がんは欧米では、「マザーキラー」と呼ばれ、小さな子どもを持つ母親たちの命を奪う病気として知られています。日本でも20代、30代の子宮頸がんが増加しており、子宮摘出が必要な「浸潤がん」として診断される新規患者数は年間約1万人。毎年、約3000人が命を、約1万人が子宮を失う、と本書にあります。

HPVワクチンを接種しても、定期的な子宮頸がん検診は受ける必要があります。それは、完全に予防できるわけではないから、なのですが、子宮頸がんを減らすことが証明されている唯一の予防策は、HPVワクチン接種だけです。

日本では、2013年4月からHPVワクチンが定期接種となりました。しかし、わずか2か月で、副反応の疑いが取り沙汰され、政府はHPVワクチンの「積極的な接種勧奨の一時差し控え」を決定しました。

その後、長らく「積極的な接種勧奨の一時差し控え」が実施されましたが、公費での無料接種もまた同時に継続されました。これは「接種しないほうがいい」と勧めているわけではなく、「ぜひとも接種を」とお勧めするのを控えている、という状況でした。分かりにくいですね。

かつて、日本脳炎の予防接種も「積極的な接種勧奨の一時差し控え」がなされた時期がありましたが、現在は撤回され、その時期に打てなかった方々の救済措置(20才までは無料接種)が実施されています。HPVワクチンについても、令和5年4月より、行政的な「積極的な接種勧奨」が再開され、同時に、それまでに接種を控えて無料接種期間を過ぎてしまった方への救済措置も開始されています。

若くして子宮頸がんになる可能性は待ってはくれず、できればヒトパピローマウイルス(HPV)に感染する前、可能なら初交前に接種することが望ましいので、一刻も早くHPVワクチン接種率を上げることが重要となります。

それでもなお、このワクチンを接種することにご心配のある方もいらっしゃるかと思います。

本書では、厚労省によると、子宮頸がんワクチンを接種した人は約338万人。そのうち、副反応の疑いがあったとされるのは1925人で約0.06%、症状が残っていた患者は186人で約0.005%とのことで、HPVワクチンで副反応が出た可能性のある人は1万人中、約6人。症状が残った可能性があるのは1万人中、約0.5人となります。すべてのワクチン、すべての薬や医療的な処置には、100%安全ということは存在しません。この数字をみて、副反応が怖いので予防接種をしないと判断するかどうか、効果と天秤にかける必要があります。

さらに、通称「名古屋スタディ」と呼ばれている研究では、HPVワクチンの副反応の可能性がある症状について調べたところ、HPVワクチンを接種した群と接種していない群とで有意な差はなく、ワクチン接種とそれらの症状との因果関係はなかったとの結論に至り、下記の英語論文として発表されています。

No association between HPV vaccine and reported post-vaccination symptoms in Japanese young women: Results of the Nagoya study. Sadao Suzuki et al. Papillomavirus Research, Volume 5, June 2018, Pages 96-103.

ここまで述べてきたのは、HPVワクチンに関連する情報のごく一部ではありますが、これらを踏まえた上で、娘さんに、もしくはご自身に、HPVワクチンを打つべきかどうか。

HPVワクチンは、主に思春期に、新型コロナウイルスワクチンと同様に筋肉注射で行う予防接種です。本人ともその意義や副反応についてよく話しあい、本人が納得した上で実施することが重要です。ご希望があれば、診察時に本人や保護者の方にHPVワクチンについて説明させていただきますので、遠慮なくご相談ください。

HPVワクチンには従来、2価と4価の2種類のワクチンがあり、公費で無料で接種できましたが、令和5年4月より、世界的にはすでに使用されていた9価のHPVワクチンが日本でも公費で接種できるようになりました。インフルエンザウイルスにもA型とB型があるように、ヒトパピローマウイルスにもいくつかの種類があり、その中で子宮頸がんの発症に関連していると言われる2つのウイルスをカバーするのが2価ワクチン、4種類のウイルスをカバーするのが4価ワクチンであり、新しく採用されたのは、9価で9つのウイルスをカバーし、子宮頸がんに対してより大きな予防効果が期待できます。ただ、それまでの2価や4価のワクチンでも十分に効果はありますので、現状、もう一度、9価のワクチンを接種する必要はないとされています。

HPVワクチンは世界中で接種されており、中には女性だけでなく、男性にも無料で接種している国も存在します。HPVは男性の陰茎癌に影響する可能性もあり、また、性交によりパートナーからHPVに感染してしまう可能性があるからです。

「僕たち日本人の医者だけ、あとどのくらい子宮を掘り続ければいいんですか?」

この言葉は、村中璃子氏の講演後の若い産婦人科医の発言で、将来、日本だけ極端に子宮頸がんの手術が増えてしまうことを危惧しての言葉です。

すでに海外では、HPVワクチン接種の普及により、子宮頸がんの撲滅を目指している国もあります。

子宮頸がんを予防するために!HPVワクチン接種をぜひご検討ください。